極彩妖怪百物語

妖怪画家が、過去の怪画を怪説付きでご紹介。怪説は全て創作です。

092 #旱神

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イナゴも食べ尽くした。
大地のヒビはますます深く、広くなっていく。
暑さと渇きでまともな意識ではない。
在らぬ物も見え始める。

干からびた大地に跳び跳ねる怪物を見た。
目がひとつ、手がひとつ、足も一本。
ひとまわり大きく見える太陽を背にして、
嬉しそうに跳ね続けた。

091 #鬼

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小人の国に流れ着いた。
蒸し暑く、我が国の気候とは違った。
彼らは膚が黄色く、瞳と髪が黒く、小柄で理解できない言葉を話していた。皆同じような顔で、個体識別が難しい。
文明は進んでおらず、私の一挙一動をじっと見ていた。
自然に、お互いあまり干渉しない空気ができ、我々は共に生きた。

彼らは私の事を「オニ」と呼んでいた。
意味はわからない。

093 #いつまで

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遺体を埋葬しないで置いておくと、やって来て「いつまで」と鳴く。
だからもう3年も、こいつの声を無視している。
仕事はないし、もとより働く気力もない。
母の年金だけが頼りなのだ。

「いつまで、いつまで」
声も母親と同じだ。
いつまで?
俺が死ぬときまでかな。

頑丈に封印してあるトイレにちょっと合掌し、公衆便所に用足しに出かけた。

089 #手の目


風の強い夜、野原で盲人を殺した。
やつらの耳は良いが、今日はススキが煩い。足音は気にせず近寄れたよ。
で、こいつは金を持っていた。
俺は早速賭場に向かった。

妙なんだな。
俺の向かいで賭けてる奴が、
さっきの盲人にそっくりだ。
そいつはひどくツイていて、まるで手のなかの札が見えているみたいにアて続け、手に入れたばかりの俺の金を全部巻き上げて賭場を後にした。

俺は追いかけた。
奴も盲人だ。さっきと同じにやればいい。
野原で追い付き、風に紛れて近づく。
奴が振り向いた。
俺に向けて両手をぱっと突き出した。
「同じ手を二度も喰らうか」
敵意に満ちた目が、両の掌から俺を睨み付けた。

088 #ひょうすべ

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陸で生活する河童の親類。
その昔、人足として秘術により命を吹き込まれた藁人形が、河童になったとも言われる。
人に害をなすところを見ると、良い使われ方をしなかったのか。
魔術も技術も同じ。間違って使ってしまえば、容易く主人に牙をむくようになる。ヒトという生き物、何度同じ過ちを繰り返すのか。

087 #小豆研ぎ

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沢の方から、ひっきりなしに、小豆を研ぐ音がする。
小豆を数えるのが上手だった小僧が、
殺されてしまい、その怨念とも言われる。
寺が近所になくても現れる。
音を頼りに探しに行くと、沢に落ちると言う。
「小豆磨ごうか、ヒト取って食おか」
と、歌っていることもある。
小豆を磨いでおいて欲しい。