極彩妖怪百物語

妖怪画家が、過去の怪画を怪説付きでご紹介。怪説は全て創作です。

100 #山ン本五郎左衛門退散す


イノウヘイハチとやら、
敵ながら、天晴れであったぞ!
見事な豪気っぷりであった!
またお会い居たそう。
今は去らばじゃ。
はっはははははははははははははは…!


…さて、さて。
また一からやり直しじゃ。
まずは、誰に取り憑くとしようぞ。
おや、

誰かがこの記事を読んで居るようだ…。

098 #下がり


木から下がってくる怪異。

武士は刀を構えていた。森の中を静かに進む。
湿った風が吹き、木々の隙間から馬の首が下がった。閃光一閃、馬の首は切り払われた。
木々を見上げるが何もない。
馬の首は血を出しながら転がっている。

武士はさらに進む。
湿った風が吹いた。
間髪を入れず、木々の隙間から「侍」が下がってきた。
武士は反射的に凪ぎ払う。首が藪に飲み込まれた。

前方に古井戸がある。中から何かがこちらを窺う気配。
武士は井戸の縁に手をかけ、頭を突っ込んだ。

井戸の脇に首のない馬が死んで居たことを認識した刹那、武士の首は薙ぎ払われ、藪のなかに飛び込んだ。

097 河童

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ワシらがこの国に来たのはもう二千年以上前、稲と一緒に渡ってきた。
神としてだ。

崇められて、秋には盛大な祭りもあったし、
河が溢れれば人柱ももらった。

それが、世の中がすすみ、
いつしか妖怪と呼ばれ、退治される同胞も出た。

ワシらは隠れてすむようになった。
今では、未確認生物と言われておる。

神通力もなくなったようだ。
同胞と連絡も付かない。

ワシは孤独だ。

096 #ケッカイ

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子供の代わりに生まれてくる。
囲炉裏の自在鉤を伝って屋根に逃げる。
妊婦に見せると気が触れるので、見てしまう前に殺してしまう。

そう言い聞かせておいて、
生まれた瞬間、妊婦が不安のあまり、自在鉤に目を遣った刹那、赤子から目を逸らした刹那、
臍の緒で赤子を絞めてしまう。

口減らしだとも言う。
私生児の始末だとも言う。
奇形児、未熟児だとも言う。

ケッカイはしっかりくるまれて、取り上げ婆以外は見る事もなく、処分される。
「見たら気が触れるよ」と念を押されて。

095 #袖引き小僧

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今日は、袖をひいてはくれないのか…。
遥かに川を見下ろす橋のたもとで男は呟いた。

辛い会社。生活の無い家。
生きる意味の無い生活。
ある日、川を眺めていると、確かにはっきりと、袖を引かれたー川の方に。
「誰かが解ってくれている」逆にそう感じた。
毎日、川辺で袖を引いてもらえることで、不幸とその理解者を実感し、生きる気力にした。が、
ついに死神にも愛想をつかされた。

彼の行く先には、会社という地獄が待っている。